石田衣良『眠れる真珠』

石田衣良眠れぬ真珠 (新潮文庫)のラスト、主人公が真珠を買うシーンが強烈に心に残る。色形ともに的確に自分に似合う真珠を選び出す女性主人公。選ぶ真珠の色彩と諦観と、大人びたさばけた感じが格好いい。

真珠は、女性版画家の主人公にとって大切な買い物やった。自身の性格などを受け入れる自己評価と、版画の作品とをつなぐ大事な鍵になっているもの。さらには、区切りの良い機会に、わざわざタヒチで、真珠を扱う人から直接買うことまですべて主人公にとって大事なことになっている。伏線に出てきた銀座ママの「ダイヤモンドと真珠」の話もあり、このシーンには強烈に憧れる。

同時に原田宗典優しくって少しばか (集英社文庫)を思い出す。主人公の彼女の右足のアンクレットが出てくるシーン。「どっちが右足かいつでも分かるように」アンクレットをつけている彼女を、主人公は「じたばたしたいくらい、どうしようもなく可愛い」と思ってた。

20歳の前半までは、私の圧倒的な憧れは右足にアンクレットをつける彼女やった。ずっと彼女みたいになりたいと思ってた。いや、今もちょっとは憧れがあると思う。若い女性ならではの透明感と純粋さとバランスの悪さを持つ「アンクレット」。一方で、自分のために真珠を買う女性は40代。そういう女性に憧れる私は、ちょっとは大人になったってことかなぁとも思う。