東京の地下鉄

上京したばっかりの頃、地下鉄の乗り換えをしながらしょっちゅう心の中で毒づいてた。地下鉄は嫌いやった。地下鉄=地面の下という固定観念があるのに、乗り換えで階段を上がったり下りたり。だんだん感覚が狂って、よく分からなくなる。なんで地下鉄の乗り換えで階段を上がり下りするねん?○○線ホームまで300mって遠すぎ! 全然バリアフリーじゃない! バギーやスーツケースを持った女性は乗り換え無理。などなど、不快感があっていちいち毒づいてしまっていた。

今だって、東京メトロはかなり特殊な乗り物やと思っている。仕事人のため限定と言っても良いような乗り物。颯爽とおしゃれに、テキパキ歩け。人の流れにのれない人は来るべからず。そういう空気があって、平日の昼間でもハイキングの格好のおばあちゃんとか、大阪の環状線でよく見かけた大きな声のおばちゃんとか、変なことを大声で叫んでる人とか、足がかたっぽない人とか、そういう人は見かけない。例えば心の病気になってしまったら、私には絶対に乗れないと思う。そういう意味では、テンションが高くないと乗れない乗り物やと思う。

でも、最近はもう、心の中で毒づくことはない。多分、慣れちゃったんやと思う。それにこの2〜3年、東京23区で生まれ育った友達が増えて、生粋の東京人は地下鉄に積極的には乗らないことも分かってきた。彼女たちはだいたい車を使うかバスに乗る。

必死になって複雑な乗り換えを頑張って「東京の乗り換えが大変!」と飲み会で盛り上がれるのは地方出身者だけ。東京の人は、土地勘として地上を移動する方が便利で近くて早いことを知っているし「地下鉄の乗り換えができる」ことを自慢する必要もないので、現実的に楽な方法で動いてる。

東京暮らしまる8年すぎてしまった。今さら大阪と東京を比べようとは思わないけれど、時々東京を意識するのは地下鉄の乗り換えの時。毎年転職か引っ越しをしているので、生活がどんどん変わる。そのたびに利用する路線が変わる。変化の時は、乗り換えで無意識のうちに何回逆方向電車に乗ってしまうことか。疲労と消耗。空から見たら、地下の中をうろうろして、あほなことやろうなぁと笑っちゃう。

そうやって東京の地下鉄の乗り換えに迷いながら、過去と今を一気に思い出して自分は何をしてるんやろうと思う。