坂口安吾『白痴』

坂口安吾『白痴』を再読。主人公の白痴の娘が誰の子供か分からない子を孕んでいる、という冒頭のさりげない一文と、娘が家に来て「好きだから隠してくれると思った」という内容のことをぶつぶつ言うあたりにびっくりする。なんとおおらかな、というのが率直な感想。律するとか男女の関係を清らかに語るとか、そういう理性での物語はない。

性を含めた男女の関係について、言葉で割り切れないぐじゃぐじゃした感じをあっさりと認めている感じ。

久世光彦の小説も思い出す。昭和前半の物語で、やっぱり知的障がいの女性が出てきて、村中の男と関係をもってしょっちゅう妊娠している、というようなものがあった気がする。湿っぽい穢れの場所と性とが一緒に存在。社会的倫理として良いとか悪いとかではなく、人間の業とかおろかさとか全部を受け入れる感じ。個人的にはちょっと安心する。

そういうことを考えながら絲山秋子の『ばかもの』を読んで衝撃。女にふりまわされる男、そのままアルコール依存がどんどん進んでいき、いきつく先は「頭が真っ白になって超ミニをはく」ひどいふられ方をした女に助けられる。絲山さんは現代版の坂口安吾なのか?