紀州 中上健次

紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)一夏かけて読了。熊野の旅もふまえて、自分の中で奈良と和歌山の風土の違い、差別性の違いが整理される。

部落差別は、奈良で育つ中で避けられず向き合わされるものやった。東京9年暮らしから奈良に戻って、改めてそれを思い出す。中上健次は部落差別の根を探して、紀州を旅する。書き出された熊野の差別は、奈良とは根本的に違う感じがした。

まだ理解を深められていないけど、奈良は穢れの意識はあるし、職業の貴賤だって背負わせるけど、裏腹に神との近さ、生命の根源的なものに触れる人への尊敬も含ませる感じがする。例えば、芸能神事を担うのが部落の人びとだったらしいこととか。

熊野は違う。もっとどうしようもなさを背負わされる感じ。人間としての社会生活が成り立たないくらい。中上健次聞き書きしながらたどりつくのは言葉の無力さで、おそろしい著作やと思う。熊野は、縄文時代の原始の感覚につながるらしい。